私が幼稚園に通い始めた頃、母は内職を始めた。生活は苦しかったが、戦前生まれの父の「女が働きに出るなんて情けない」という考え方を尊重してのことだ。収入を増やしたいけれど、外には出られない母にとって、幼稚園のママ仲間に内職を紹介して貰えた事は渡りに船だったと言う。
母の内職は、靴作りだった。車で20分くらいの所にある靴の町から団地の多いうちの地域に運ばれてくるのだ。飾りになる小さな部品をベルトに取り付けたり、靴の甲の部分とサイドを縫い合わせたりという作業だった。最初の数年間は、縫い合わす作業が多く...
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一人目の旦那さんと学生結婚をしてから、私の父と再婚して私が幼稚園に上がるまで。母は子育てと家業の喫茶店の手伝いしかしていなかった。そんな母が35歳になって初めてした仕事が靴作りの内職。これをした事で、母に大きな変化があった。今までは、誰が見ても「働いた事のない手」だった母の指がどんどん太くなり、そして曲がっていった。どうやら油をつけた糸で靴を縫うという作業は、一般の裁縫に比べて強い力を使うらしくそれに対応するように指の形が変形したのだ。冬場には、アカギレで水絆創膏が手放せなくなった。普通の絆創膏...